旅先で、ふと人の表情が美しく見える瞬間があります。
あるいは、夕暮れの街角にやわらかな影が落ちるとき。
そのどちらにも自然に寄り添ってくれるのが、FE 35mm F1.8でした。
京都の路地やカフェを歩きながら、このレンズが見せてくれた景色を振り返ってみます。
描写について
FE 35mm F1.8の描写は、派手さよりも「素直な美しさ」が際立ちます。
開放で撮ると柔らかなボケが背景にほどよく溶け込み、被写体の輪郭が静かに浮かび上がります。
人物を撮ると、肌のトーンが落ち着きつつも明るさが均一に広がり、過度なシャープさで硬くなることもありません。
街を撮るときでも、コントラストが強すぎないため階調がしっかり残り、光の移ろいが自然に写る印象です。
朝の光に照らされた石畳の微妙な反射や、曇り日の空気を含んだ色合いなど、シーンの空気感まで拾い上げる懐の深さがあります。
F1.8という開放値は、被写体だけに視線を誘導したい場面でも確かな効果を発揮します。
ただ、あまりに背景が溶けすぎることはなく、奥行きを感じるバランスを保ってくれるので、ポートレートでも日常スナップでも扱いやすい印象でした。
AF性能
このレンズのAFは、軽快というより「迷いのなさ」が魅力でした。
人物の目に自然と吸い込まれるように合焦し、歩きながら撮るシーンでも反応が素直です。
路地で見つけた植物に寄って撮るときも、ピント面の移動が滑らかで、マクロレンズほどではないものの、最短撮影距離の短さを実感できます。
テーブルフォトの場面でも、コーヒーカップの縁やケーキの断面など、細部にそっと寄り添うような撮り方がしやすく、撮影のリズムを崩しません。
暗い店内や夕景の場面でも、ピントの迷いが少なく、スナップで足を止める時間が短くなるのは大きな利点です。
AFの速度だけでなく、被写体をしっかり掴む力があり、撮りたい瞬間をストレスなくかたちにできます。
カメラが生み出す表現力
背景の灯りが大きく滲むことはなく、粒立ちの綺麗なボケが被写体を引き立てます。
顔のラインが自然に描かれ、髪の細い流れも繊細に残るため、光を選べば本当に優しい絵になります。
街の情景では、35mmらしい「寄りすぎず離れすぎない」距離感が心地よく、歩いている人々や店先の佇まいを邪魔せず切り取れます。
夕暮れのオレンジ色が少しずつ青へと変わる時間帯では、色の移行が丁寧に写り、デジタル特有の硬さを感じさせません。
カフェでは、木のテーブルのざらっとした質感や、窓際に落ちた柔らかな光の形が正確に表現され、落ち着いた雰囲気をそのまま写真に閉じ込めてくれます。
F1.8を選ぶ理由が軽さだけではないことを、撮り続けるうちに実感します。
FE 35mm F1.8は「日常を美しく残すための定番」と呼びたくなる一本です。
軽さ、描写、AFのバランスがよいのはもちろん、初めての単焦点として安心して選べるだけでなく、経験を重ねても手放したくならない魅力があります。
旅や散歩の相棒として、気軽に持ち出せる確かな存在感を持ったレンズだと感じました。

